一人が好き。でも寂しがりやの人生後半戦

楽しくて少し知的な生活を目指すアラフィフのブログです

小説を読む醍醐味、久しぶりにたっぷりと

ここのところ、さらりと読める
軽めの小説やエッセイなどを手に取ることが
多かったのですが


本屋でなぜか目に留まった
けっこう厚みのある本
森鴎外の末子、森類(ルイ)の生涯を
描いた作品です


「坊ちゃん」と大切にされ
何不自由なく少年時代を過ごした類ですが
天才、鴎外の子でありながら
学業は成せず、絵の勉強を始めます


鴎外の死後、母と、強烈な個性を持つ
二人の姉と三人で、鴎外の遺産を糧に生き、
姉の杏奴(アンヌ)とともにパリに出て
絵を本格的に学びます


あの頃にフランスに留学するって
どれだけの費用がかかったことでしょう
それも、藤島武二など一流の画家の門戸に
なったのですから…
羨ましいかぎりです


だけど、パリの生活を心から楽しむ
類と杏奴の姿は、読むものを幸せにしてくれます
若き日の岡本太郎なんかも出てきて楽しい


しかし、時代は進み日本は戦争に突き進み
敗戦後、遺産である国債は暴落、鴎外の
著作の印税収入の期間も切れ、
類は極貧の生活を強いられます


鴎外の子なのにもかかわらず


小さな書店を開き、妻とともに
朝から晩まで、身を粉にして働くけれど
生活は楽にはならない


あの、文豪、森鴎外の子が、です


それでも読むものは、類のなかに確かにある
芸術家としての才、
そして恵まれた環境で育ったからこそのセンス、
粋な姿を見てとって、楽しんでしまう


姉二人との確執もすさまじく
厚い本なのに、いっきに読みきってしまいました


小説を心底楽しんだ、という深い満足感を
久しぶりに味わいました


そして、最後は小さなアパートの一室で
息を引き取った類の姉、森茉莉のことばも印象的


「贅沢というのは、高価なものを持っていることではなくて
贅沢な精神を持っていることである」


思うままに生きた茉莉さんの著作にも
触れたくなりました